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東京地方裁判所 平成6年(ワ)23699号 判決 1998年4月23日

原告

神田紀子

原告訴訟代理人弁護士

紀藤正樹

杉山典彦

被告

松岡正子

被告

神慈秀明会

右代表者代表役員

小山弘子

被告ら訴訟代理人弁護士

杉本秀夫

神﨑浩明

櫻井義之

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、原告に対し、各自金二七一二万一〇〇〇円及びこれに対する平成四年四月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告神慈秀明会の信者であった原告が、被告松岡正子(以下「被告松岡」という。)ら被告神慈秀明会信者の、教義ないし指示に基づく組織的な欺罔脅迫行為などの社会的相当性を逸脱する行為により、被告神慈秀明会に対して献金をさせられ、また、被告松岡が被告神慈秀明会に対する献金を立て替えたとして原告にその返還を迫り、金員を支払わされたとして、主位的に、被告両名に対して共同不法行為に基づき、予備的に、被告松岡に対して一般不法行為、被告神慈秀明会に対して使用者責任に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。

争点は、原告の支払った金員の性格が何であるか、及び、被告神慈秀明会ないし被告松岡ら被告神慈秀明会信者が、原告に対して欺罔脅迫行為などの社会的相当性を逸脱する行為を行い、原告をして金員を交付させたかどうかである。

一  前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠により認められる事実)

1  被告神慈秀明会について

(一) 被告神慈秀明会は、「岡田茂吉師を教祖と仰ぎ、教祖立教の真精神を体して、『みろくおおみ神』を主神として奉斉し、その教義をあまねく全世界にひろめ、真理の見現により健富和の理想社会地上天国を建設するために、儀式行事を行い、信者を教化育成」すること等を目的とする宗教法人である。

(二) 被告神慈秀明会の登記簿上の本部は京都市であるが、宗教活動上の本部は滋賀県甲賀郡信楽町にあり、全国各地及び海外に支部や集会所等がある。各支部には支部長が置かれ、以下、教師、助教師、世話人及び一般信者という段階があるが、これは、被告神慈秀明会の規則等で定められたものではなく、長年の慣習ないし慣行に基づくものである(弁論の全趣旨)。

被告神慈秀明会に入信するためには、その教修の第一講及び第二講を受ける必要があり、これを受けて入信した一般信者は、まず特修会という初級の勉強会(一年間)を終了した上で、一般エリート会という更に上級の勉強会(一年間)に進むのが通常である。世話人になるためには、過去一年間に一〇名以上の未信者を被告神慈秀明会へ入信させ、かつ、その先一〇世帯一〇名以上の一般信者をお世話(本部及び支部への参拝、各信者の自宅での朝夕拝、み教えの拝読、浄霊(約五分間相手の額に手をかざして相手の健康と幸福を祈ること)、導き、奉仕活動の推進等のこと)する能力があると支部長に認められ、その推薦を受けることを要する。また、助教師、教師になるためには、それぞれ被告神慈秀明会教学室の試験に合格することを要する(甲第一号証、乙第一三号証、証人堀和子(以下「堀」という。)の証言(以下「堀証言」という。)、原告本人尋問の結果(以下「原告本人」という。)及び弁論の全趣旨)。

(三) 被告神慈秀明会の教義の大略は、次のとおりである(甲第一号証、第二四号証の一、二、乙第一三号証、堀証言、原告本人)。

この世には人々が現実に暮らしている世界(現界)と、霊層界(天国、中有界及び地獄の三界が各六〇段階に分かれ、計一八〇段階の層をなしている。)が存在している。現界の人々に起こる苦しみ(病気、貧困、紛争等)は、自分の霊層界の段階に起因しており、自分の霊層界を高めれば苦しみは解決の方向に向かう。霊層界を高めるためには徳を積む必要があるが、その方法としては、①他人のために浄霊を行うことや、未信者を勧誘して被告神慈秀明会の信者にすること、②精神的又は肉体的に労働して被告神慈秀明会に奉仕をすること、③被告神慈秀明会に献金をすることの三つがある。

(四) 被告神慈秀明会に対する献金には、感謝献金と建設献金の二種類があり、建設献金の中で、金額が決められている特別なものとして、桃の実献金(一〇〇万円)と桃の種献金(一〇万円)がある(乙第一三号証、堀証言)。

被告神慈秀明会に対してされた献金はすべて同被告に帰属し、その運営資金に充てられている。

2  原告及び被告松岡について

(一) 原告は、昭和二九年一一月七日生まれの主婦であり、昭和五八年四月一四日に被告神慈秀明会に入信し、同年九月一一日に特修会を終了し、平成二年から一般エリート会に所属したが、平成五年に脱会した。

(二) 被告松岡は、昭和一六年八月一六日生まれの主婦であり、昭和五七年九月二八日に被告神慈秀明会に入信し、特修会、一般エリート会を経て、平成三年一二月二一日から世話人になったが、平成六年一二月二〇日に世話人を辞めている。

(三) 原告は、昭和五二年一二月四日、東京都品川区の関東逓信病院において、長男Kを出産したが、Kは、二分脊髄と水頭症という二つの難病に罹患しており、手術のため、同病院に入院しなければならなかった。被告松岡が同年一〇月二一日に出産した長男Mも、心雑音及びチアノーゼのため同病院に入院していたが、昭和五四年二月から、KとMは同じ病室になり、そのため、原告と被告松岡は次第に親しくなっていった。そして、両名は、それぞれの子供が退院してからも、たまに連絡したり会ったりする仲になった(甲第一号証、乙第一二号証、原告本人、被告松岡本人尋問の結果(以下「被告松岡本人」という。))。

二  原告の主張

1  原告が被告神慈秀明会に入信し、献金した経緯

(一) 原告の入信に至る経緯

原告は、昭和五八年二月ころ、被告松岡から、被告神慈秀明会のことは知らされないまま、東京都世田谷区深沢の被告神慈秀明会東京支部(以下単に「東京支部」という。)に連れて行かれた上、被告松岡に言われるまま、被告神慈秀明会の教修の第一講を聞かされ、浄霊を受けた。そして、被告松岡や当時被告神慈秀明会の助教師であった貝森恵子(以下「貝森」という。)らから、熱心に被告神慈秀明会への入信を勧められ、翌日には教修の第二講も聞かされたが、その時は入信しなかった。

しかし、その後も、被告松岡は、宝塚劇場での被告神慈秀明会の信徒大会に原告を誘って参加させ、また、当時東京支部の助教師であった堀と共にいきなり原告宅を訪れて半ば強制的に原告を東京支部に連れて行くなど、東京支部を挙げての強引な説得工作が行われた結果、ついに、原告は、昭和五八年四月一四日、被告神慈秀明会に入信させられるに至った。

(二) 原告の入信直後の状況について

(1) 原告は、入信から約四か月後、「一泊参拝団」という、泊まりがけで支部長の講話などを聴く行事に参加させられた。ここで、原告は、東京支部の支部長である橋本孝子(以下「橋本」という。)から、「あなたの子供が脊髄の病気にかかっているのは、あなたの先祖に子供と同じ病気だった者がいて、未だに浮かばれないため、子孫に同じ病気の子供を作って訴えているのだ。」と言われ、続いて貝森や世話人の上岡から、「先祖の霊を慰めるためにはおすくい(駅前に立ったり個別訪問をしたりして未信者に浄霊をし、支部や集会所等に誘って話を聞いてもらうこと)か献金をして徳を積まなければならない。献金は霊界に貯金することで、これをすると先祖が喜ぶ。献金の額は多ければ多いほどいい。」と教えられた。

(2) これと前後して、原告は、被告松岡から、「霊の力は大変に恐いもので、先祖の霊が怒ると、人を死に致すなどたやすいことだ。」とか、「不倫などをすると、先祖の霊が怒って、弱い子供、特に長男や長女に浄化(例えば、死、病気という形で霊が訴えること)する。」などと聞かされていた。

(3) また、原告は、被告松岡から、常々「自分は霊感が強く、先のことが分かる。」と言われ、同被告の夢の中に、原告の先祖らしい人が体にナイフか刀の突き刺さったままの姿で現れたとか、死んだ原告の養母が現れて、「松岡さん、三〇〇万円出します。」と言っていたなどと聞かされていた。

(4) このころ、原告は、当時発覚した夫の不倫について被告松岡に相談していたが、原告は、被告松岡や橋本を始めとする被告神慈秀明会の信者から、(1)ないし(3)のような言動を執拗に繰り返されたため、身障児である長男Kだけでなく、長女T(昭和五七年二月一五日生)にまで災いが及ぶおそれがあると思い込まされ、それを避けるためには何としてでも金を集めて献金をし、徳を積まなければならない、という畏怖、誤信状態に陥っていった。

(三) 献金

(1) 三回の桃の実献金

① 原告は、昭和五八年秋、初めて、被告神慈秀明会から桃の実献金(一〇〇万円)を要求された。前記のとおり畏怖、誤信状態に陥っていた原告は、先祖の霊を救うため、無理をしてでも献金をしなければならないと考え、三〇万円を自分で用意し、七〇万円を世話人の真崎から借り入れた上、被告神慈秀明会に対して桃の実献金をした(別紙一覧表①)。

② 原告は、昭和六三年五月にも、被告神慈秀明会から桃の実献金を要求された。原告がお金がないと言うと、堀や世話人の真崎は、原告に対し、東京支部の信者に夫になりすましてもらって都民銀行に行き、同銀行で夫名義の借入をして資金を作ることを勧めた。原告は、昭和六二年七月一九日に養母を癌で亡くしていたこともあって献金を決意し、堀らの勧めに従って都民銀行から三〇万円を借り入れ、また、被告神慈秀明会信者の石田から七〇万円を借りて一〇〇万円を作り、桃の実献金をした(別紙一覧表②)。

③ 原告は、平成元年四月、従前から気管が弱く肺炎を繰り返してきた次女N(昭和六二年四月四日生)を昭和六三年一一月二六日に呼吸循環不全で亡くし、肉親の相次ぐ死亡に自分の運命を呪いたくなる気持ちになっていたところ、被告松岡から、死んだ養母と二女が地獄の近くでさまよっているなどと脅迫されたため、居ても立ってもいられない精神状態になり、再び、東京支部の信者に夫になりすましてもらい、都民銀行でローンを組んで一〇〇万円を借り入れ、桃の実献金をした(別紙一覧表③)。

(2) 被告松岡に対する金員の交付

① 原告は、度重なる家庭の不幸による極度の精神的疲労と子供を思う気持ちとで、冷静な判断ができる状態ではなかったが、その後も被告松岡ら被告神慈秀明会信者による継続的な欺罔脅迫行為を受け、様々な金融機関から借金して献金を続け、電気、ガス等の公共料金を支払えないほどの窮状に陥っていった。

② そんな中、被告松岡は、平成二年ころ、原告に対し、献金のための資金を立て替えてくれるようになった。借金を重ねていた原告は、他からのそれ以上の借入が困難な状況にあったため、被告松岡の右の立替払いの申出を受けざるを得なかった。

③ ところが、そのうち、被告松岡は、原告に何の相談もなしに勝手に原告や原告の子供たちの名義で献金し、右献金分の支払も原告に請求してくるようになった。

被告松岡は、原告に対し、「あなたの名前で献金したということは、あなたは先に徳を頂いていることになるから、それを返さなければ霊的借金が残ってしまうことになるのよ。」「返さないわけにはいかないのよ。」などと述べ、さらに原告の職場に督促の電話を掛けるなど、強硬な取立てを行った。

原告は、ただただ子供たちに先祖の霊が浄化することを恐れ、被告松岡に対する霊的借金を返さなければという思いだけで必死になって働くとともに、更にサラ金や質屋などから借入れをし、別紙一覧表のとおり、被告松岡が指定する場所に現金を持参して手渡したり、同被告が指定する銀行口座に振込送金したりして、計一一九二万一〇〇〇円を支払った(別紙一覧表④⑥⑦⑨ないし)。

さらに、被告松岡は、平成三年一二月及び平成四年八月、原告の養父神田慶治方を訪れ、同人に対し、原告の債務の返済を迫り、二回に分けて計七二〇万円を取り立てた(別紙一覧表⑤⑧)。

被告松岡は、原告に対する現実の取立てに先立って被告神慈秀明会に献金しており、また、原告から取り立てた金員も、被告神慈秀明会に対する献金としていたものである。

2  責任原因

(一) 被告松岡

被告松岡は、被告神慈秀明会の教義ないし指示に基づき、他の信者と共に、原告に対して欺罔脅迫行為などの社会的相当性を逸脱する行為を続け、原告をして誤信、畏怖状態に陥れ、献金ないし献金の立替金名下に多額の金員を交付させたのであるから、不法行為責任を負う。

(二) 被告神慈秀明会

(1) 共同不法行為(主位的)

(一)のとおり、被告松岡を始めとする被告神慈秀明会信者は、被告神慈秀明会の教義ないし指示に基づき、原告に対して欺罔脅迫行為などの社会的相当性を逸脱した行為を続けたものであるところ、これは、被告神慈秀明会の献金ノルマ達成を目指して、その上意下達的な組織を挙げて行われたものであり、被告神慈秀明会自体の行為と評価するべきであるから、被告神慈秀明会自身も不法行為責任を負う。

(2) 使用者責任(予備的)

仮に、(1)の被告神慈秀明会自身の不法行為責任が認められないとしても、被告松岡は被告神慈秀明会の信者であり、高度に組織化された被告神慈秀明会の被用者であるといえ、被告松岡に関し、(一)のとおり被告神慈秀明会の事業の執行についての不法行為が成立するのであるから、被告神慈秀明会は使用者責任を負う。

3  損害

原告が被告らの不法行為によって受けた損害は、左記(一)ないし(三)の合計二七一二万一〇〇〇円である。

(一) 被告松岡ないし被告神慈秀明会に支払った金員

計二二一二万一〇〇〇円

原告は、被告松岡ないし被告神慈秀明会に対し、計二二一二万一〇〇〇円を支払い(別紙一覧表①ないし)、同額の損害を被った。

このうち、神田慶治が被告松岡に対して平成三年一二月に支払った四八〇万円と平成四年八月に支払った二四〇万円の合計七二〇万円(別紙一覧表⑤⑧)については、それまでの被告松岡の原告に対する六〇〇万円以上の一連の献金強要という不法行為の一環であり、神田慶治に対する右取立行為自体が原告に対する不法行為を構成すると同時に神田慶治に対する欺罔による不法行為を構成する。いずれにせよ、神田慶治が平成六年六月一二日に死亡したことにより、原告に生じた損害が確定すると同時に、唯一の相続人である原告が神田慶治の損害賠償債権を相続した。

(二) 慰謝料 二〇〇万円

原告は、被告神慈秀明会及び被告松岡を始めとする被告神慈秀明会の信者による継続的な欺罔脅迫行為により、(一)の損害を被ったのみならず、通常の生活の維持はおろか、借金の取立てに苦しむなど、筆舌に尽くしがたい精神的苦痛を被った。

(三) 弁護士費用 三〇〇万円

三  被告らの主張

1  被告松岡の主張

(一) 原告が被告神慈秀明会に入信し、献金した経緯について

(1) 原告の入信に至る経緯(原告の主張1(一)に対して)

原告が昭和五八年四月一四日に被告神慈秀明会に入信したことは認めるが、原告主張のその余の経緯は否認する。

原告が初めて東京支部に来て教修の第一講及び第二講を受講したときのことについては、被告松岡が、当時被告神慈秀明会の助教師であった堀と共に原告宅を訪れ、両名で被告神慈秀明会について説明したところ、原告はこれに理解を示し、取りあえず東京支部に行くことに同意したものであり、ただ、原告が当時他の宗教に入信していたこともあって、結局入信に至らなかったものである。原告が主張するような、支部を挙げての強引な説得工作などはなかった。

その後、被告松岡は、原告が他の宗教の信者でもあるので、被告神慈秀明会への入信の誘いは特にしなかったが、被告神慈秀明会が年一回宝塚劇場を借り切って開催していた信徒大会のアトラクションに宝塚の観劇もあったので、原告をこれに誘い、そこで改めて被告神慈秀明会への入信を勧めたところ、原告は快く入信したのである。

(2) 原告の入信後の状況について(原告の主張1(二)(三)(1)に対して)

被告松岡は、原告に対し、原告が主張するような欺罔脅迫行為はしていない。原告が入信した後は、原告が東京都目黒区から東大和市に引っ越したこともあり、原告と被告松岡とが会う機会は次第に少なくなっていったものである。

原告は、被告神慈秀明会に入信した後は大変熱心な信者となった。原告がした三回の桃の実献金はその現れである。

(3) 被告松岡の原告に対する貸付(原告の主張1(三)(2)に対して)

① 被告松岡は、原告に対し、欺罔脅迫行為はしていない。

② 被告松岡は、昭和六三年一〇月一一日、夫松岡公隆と協議離婚し、財産分与として同人の退職金を受領し、また、平成元年四月六日には、かねてから世話をしていた清水繁太郎が死亡し、同人の遺言に基づいてその遺産をも承継した。そのため、被告松岡は、平成元年ないし平成三年の段階では、金銭的にはかなりの余裕を有することになった。

一方、当時、原告は、夫の女性問題に悩み、別居状態であり、さらに、原告の夫が不倫相手の女性名義のクレジットカード等を勝手に使用していたため、原告自身のところまで苦情が来るような状況になっていた上、障害をもった長男Kをも抱えていた。原告はこうした状況を被告松岡に相談するとともに、被告松岡が金銭的にかなり余裕があることもあって、金銭の借入れを被告松岡に申し込んだ。

当初、被告松岡は、原告に金銭を貸し付けるつもりはなかったが、原告のあまりの窮状を哀れに思い、以下のとおり、四回にわたって合計一一〇〇万円を原告に貸し付けた。ただし、貸付ごとに借用証を取ったわけでもなく、また、原告ができるだけ早期に返済すると述べていたので、特に返済期限の合意もしなかった。

平成二年一二月三一日

三〇〇万円

平成三年二月二六日二〇〇万円

平成三年三月三一日三〇〇万円

平成七年七月一六日三〇〇万円

しかし、原告は、これらの借入れについて、返済すると言いながらなかなか返済しなかったので、被告松岡は不審に思い、一般エリート会の席上で、貸付けの証拠として、原告に金銭借用証書に署名捺印してもらった。これが乙第一ないし第四号証である。このとき、原告は、連帯保証人欄の神田慶治の署名押印もしたが、このままでは神田慶治に無断で原告が署名押印したことになるので、平成三年一〇月三〇日、原告と被告松岡両名で神田慶治宅を訪問し、神田慶治本人から連帯保証人となることについての確認を取った。

③ 原告は、被告松岡からの前記借入れについて、以下のとおり、合計一〇二五万一〇〇〇円を返済した。

銀行振込によるもの

計六〇四万一〇〇〇円

内訳は、別紙一覧表⑥⑦⑨ないし⑯⑱ないしのとおりである。

被告松岡に直接手渡したもの

計四二一万円

平成三年一二月一八日

四〇万円

平成三年一二月二六日

二一七万五〇〇〇円

平成四年七月一〇日 四〇万円

平成四年八月二日

三万五〇〇〇円

平成四年八月二七日

一二〇万円

④ 以上のとおり、本件は、単に金銭に窮していた原告が被告松岡から金一一〇〇万円を借り入れ、そのうち合計一〇二五万一〇〇〇円を返済したが、未だ未返済分があるというだけのことである。

(4) 責任原因及び損害について(原告の主張23に対して)

否認し、争う。

2  被告神慈秀明会の主張

(一) 原告が、被告神慈秀明会に対し、別紙一覧表①②③のとおり、桃の実献金(一〇〇万円)を三回、合計三〇〇万円の献金をしたことは認める。しかし、これらは全て、被告神慈秀明会に対する信仰心の発露として、自由意思に基づいて行なわれたものである。被告神慈秀明会は、原告に対し、欺罔脅迫行為はしていないし、被告松岡にその旨指示したこともない。右三回の献金は、昭和五八年秋、昭和六三年五月及び平成元年四月であり、そのような長期間にわたり、原告が被告らから欺罔脅迫行為を受け続けて献金を繰り返すなど、あり得ない。

原告と被告松岡との間の金銭の授受を始めとする個人的なやりとりについては不知。右両名間の個人的行為については、被告神慈秀明会は関係ない。

(二) 原告が主張する責任原因及び損害については否認し、争う。

第三  当裁判所の判断

一  原告の入信及び献金に至る経緯について

原告は、別紙一覧表記載の被告神慈秀明会ないし被告松岡への合計二二一二万一〇〇〇円の支払について、これが堀や被告松岡らの欺罔脅迫行為により、被告神慈秀明会に半ば強制的に入信させられた結果であると主張するので、まず、原告が被告神慈秀明会に入信し、献金するに至るまでの経緯について検討する。

1  甲第一、第一五、第一六号証、乙第一一、第一二号証、堀証言、原告本人、被告松岡本人及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、昭和五八年二月、自由が丘で久しぶりに被告松岡と再会した際、同被告から、「桜新町に用事がある。」「観音様をお参りに行くから一緒に行かないか。」と言われ、東京支部に連れて行かれた。東京支部において、被告松岡は、原告に対し、「一時間くらいお話があるので聞いてみないか。」と、被告神慈秀明会の教修の第一講を聴くことを熱心に勧めてきた。原告は、そこがいわゆる新興宗教の施設であることに気付き、あまり気乗りはしなかったが、被告松岡の勧めを無下に断るわけにもいかないと思い、教修の第一講(内容は、被告神慈秀明会の創立者、成り立ち、活動等について。)を聞き、浄霊を受け、さらに、翌日、教修の第二講(内容は、先祖供養や霊層界について。)も聞いた。教修の第一講及び第二講を聞けば、「おひかり」と呼ばれる、紐が付いた絹製のお守り袋のようなものを被告神慈秀明会から与えられ、これを首に掛けたときから被告神慈秀明会の信者として他人に対して浄霊ができるようになるとのことであったが、原告は、第一講及び第二講を聞いただけでは被告神慈秀明会の教えも理解できず、信用できないと思い、おひかりをもらうことはせず、入信しなかった。

(二) それからしばらくは、被告松岡からも、被告神慈秀明会からも特に入信の誘いはなかった。

(三) 同年四月、原告は、被告松岡から、同月八日に宝塚劇場で開催される被告神慈秀明会の信徒大会のアトラクションとして宝塚の観劇があるので行かないかなどと誘われ、これに参加した。観劇に先立って開催された信徒大会では、被告神慈秀明会の当時の会長小山荘吉の講話などがあったが、原告は特に興味を覚えなかった。

(四) 同年四月一四日、突然被告松岡と堀が原告宅を訪れ、「あなたの場合、もう第一講と第二講の話が終わっているので、おひかりがすぐに頂ける。頂きましょう。」と言って東京支部に誘い、被告松岡が長女のTを外に連れ出すなどしたことから、原告は、やむなく二人と一緒に東京支部に向かった。東京支部において、原告は被告松岡らから被告神慈秀明会に入信するよう言われ、被告松岡らが強引なのと、被告松岡と友人関係を継続していきたいという思いから、これを断ることができず、また、おひかりをもらうだけなら何の拘束もないからいいかという気持ちになり、あまり深く考えずに被告神慈秀明会に入信することにし、入信願書を書いて入信献金三万円を支払い、おひかりを受け取った。なお、その際、原告は、入信すると、毎日支部に言って浄霊を受けることになるとか、献金をすることになるという説明も受けていた。

(五) 原告は、入信後、東京支部への日参、朝夕の浄霊、月次祭への参加をできる限り行った。そして、特修会などの勉強会で講義や他の信者の体験談などを聴いたり、「秀明」という被告神慈秀明会発行の新聞を読んで勉強したりするうちに、被告神慈秀明会の教えが真理ではないかと考えるようになっていった。

(六) 原告は、入信から約四か月後、「一泊参拝団」という泊まりがけの行事に参加した。そこで、原告は、橋本から、「原告の先祖にKのような病気の人間がいて、救われないから霊界に訴えているのでKのような子が生まれた。原告の夫も入信すれば子供の病気も良くなる。」などと言われた。

(七) その後、原告は、昭和五八年九月一一日に特修会を終了し、平成二年からは一般エリート会に所属し(前提事実2(一)のとおり)、本部及び支部への参拝、導き、おすくいなどといった被告神慈秀明会の信者としての活動を続け、平成五年に脱会するまでの約一〇年間、被告神慈秀明会の信者であり続けた。

2 右に認定した経緯によれば、原告は、入信前に被告神慈秀明会の沿革や教義の概要、献金についての説明を受け、その上で、被告松岡との友人関係を考えて断りにくかったのと、おひかりをもらうだけなら何の拘束もないからいいかとの考えから入信を決意したというのであるから、原告の被告神慈秀明会への入信自体は原告の自由意思に基づいてされたというべきである。原告が被告神慈秀明会に入信するに当たっての堀及び被告松岡の勧誘は、確かに強引な面があったとはいえ、未だ、これ自体を欺罔脅迫行為と評価することはできないし、社会的相当性を逸脱しているということもできない。また、原告は、被告神慈秀明会に入信してから次第にその教義を信じるようになり、頻繁に勉強会に参加するなど、積極的に信者としての活動を行い、一泊参拝団についても、被告神慈秀明会の行事であることを十分認識した上で参加したものであり、以後も約一〇年にわたって信者として被告神慈秀明会の教義を学び、信者としての活動を続けたのであって、熱心な信者であったということができる。

なお、一泊参拝団における前認定の橋本の発言は、被告神慈秀明会の教えを原告に即して説いたものということができ、その手段、態様等が社会的相当性を逸脱していたとまではいえない。また、甲第一号証及び原告本人及び弁論の全趣旨によれば、原告が主張する貝森、世話人の上岡及び被告松岡らの各発言については、そのようなニュアンスの発言がされたことは認められるが、これも社会的相当性を逸脱するものとまではいえない。原告が、これらの発言を耳にしたことにより、被告神慈秀明会に対して献金などの行為をしなければならないと考えたとすれば、それは、原告が、自ら積極的に被告神慈秀明会の教義を学び、これを信じていたからに他ならないというべきである。

二  原告の被告神慈秀明会ないし被告松岡に対する合計二二一二万一〇〇〇円の支払について

1  原告の被告神慈秀明会に対する計三〇〇万円の献金(別紙一覧表①ないし③)について

(一) 原告が、別紙一覧表①ないし③のとおり、被告神慈秀明会に対して合計三回の献金をしたことについては、原告と被告神慈秀明会との間で争いはない。

(二) 右各献金について、原告は、被告松岡ら被告神慈秀明会信者による欺罔脅迫によって行ったものであると主張し、原告本人尋問において、子供のことを考えると献金を拒否できなかったと供述する(原告本人調書五六頁)。しかしながら、原告は、他方で、献金について、拒否はできると思うと供述している(同五六頁)のであり、これと、一で認定した原告の入信及び献金に至る経緯をも考慮すれば、当時、原告は、被告神慈秀明会の教義を信奉しており、その信じるところに従って、拒否をしようと思えばできる献金を、自らの自由意思に基づいて行ったと認めるのが相当である。したがって、原告の献金が被告松岡ら被告神慈秀明会信者による欺罔脅迫行為に基づくものであるということはできない。

(三) なお、甲第一、第一七号証、乙第一三号証、原告本人及び被告松岡本人によれば、原告の三回の献金について、堀ら被告神慈秀明会の信者がこれを要求ないし勧誘した事実、献金には目標額があった事実、原告が献金のために信者や銀行などから金員を借りた事実、その方法を堀ら被告神慈秀明会の信者が教えていた事実は認められ(右認定に反する堀証言は到底信用できない。)、これは、必ずしも相当であるとはいえない部分があるが、前記のとおり、当時、原告は、自ら納得の上、自由意思で右勧誘ないし要求に応じ、金員を調達して献金したものと認められるのであるから、これらをもって、原告に対する不法行為に該当するとまではいうことができない。

2  原告の被告松岡に対する計五二〇万円の交付(別紙一覧表④)について

原告は、別紙一覧表④のとおり、平成元年四月から平成三年一二月までの間、多数回にわたり、被告松岡に対して合計五二〇万円を支払ったと主張し、原告本人尋問においてこれに沿う供述をするが、被告松岡はこれを否認している上、原告は、多数回にわたるという各支払の金額及び日時場所等を明らかにしておらず、右各金員の交付を認めるに足りる客観的な証拠は一切ないから、これを認めることはできない。

3  原告の被告松岡に対する計六〇四万一〇〇〇円の交付(別紙一覧表⑥⑦⑨ないし⑯⑱ないし)について

(一) 原告が、被告松岡に対し、別紙一覧表⑥⑦⑨ないし⑯⑱ないしのとおり金員を交付(銀行振込)したことについては、原告と被告松岡との間で争いはない。

(二) 乙第一ないし第四号証には、被告松岡が、原告に対し、弁済期の定めなく以下のとおり金員を貸し付けたとの記載がある。

(1) 平成二年一二月三一日

三〇〇万円

(2) 平成三年二月二六日二〇〇万円

(3) 平成三年三月三一日三〇〇万円

(4) 平成三年七月一六日三〇〇万円

そして、被告松岡は、昭和六三年一〇月一一日に協議離婚をして夫の退職金一一〇九万二五〇〇円及びその他の預金六〇〇万円を財産分与として受領し、さらに、かねてから世話をしていた清水繁太郎が平成元年四月六日に死亡し、その遺言に基づいて一〇〇〇万円を取得したため、金銭的に余裕ができ、生活費等に困っていた原告に対し、現実に(1)ないし(4)の年月日に現金を手渡したなどと供述し、乙第一二号証にはこれに沿う記載部分がある。

しかしながら、原告はこれを否定する供述をしている上、被告松岡は、約七か月間の間に四回に分けて一一〇〇万円を貸し付けたとしながら、原告の使途については分からず、弁済期も定めなかったと供述しており、これは不自然といわざるを得ず、さらに、被告松岡本人が本件訴訟において提出した準備書面である甲第一七号証には、原告の陳述書である甲第一号証の中の「松岡氏からの金銭の借入」という項目に反論する形で、「平成二年、三年は、原告も私も、エリート生で毎月二〜三回は、本部に行っており、バス代だけでも十万近く(二人分)そんなにかす余裕はありません。」との記載があることから、被告松岡が原告に対して現実に現金を交付して(1)ないし(4)の日時に貸付けをしたとの事実を認めることはできない。

(三) しかし、被告松岡本人及び弁論の全趣旨によれば、乙第一ないし第四号証は、原告が平成三年一〇月三〇日にまとめて作成したものであることが認められるところ、右事実によれば、少なくとも、原告が同日の時点で被告松岡に対して合計一一〇〇万円の債務を負担していることを自認していたことは認めることができる。そして、原告は、被告松岡から、被告神慈秀明会に献金するために合計約一〇〇〇万円を借り入れたと供述している(原告本人調書六五頁)が、原告本人によれば、この「借り入れた」とは、原告が数回被告松岡から現実に現金を受け取って自分で献金したものと、被告松岡が三ないし四回にわたって献金やバス代を立て替えたものを含む趣旨であることが認められる。

そして、1で認定したとおり、献金のために金銭を貸し借りすることや、合意の上で献金を立て替えること自体は、違法とまではいうことができないし、社会的相当性を逸脱するものであるともいえない。また、1で認定した献金に対する原告の認識及び一で認定した原告の被告神慈秀明会の信者としての長年の行動歴からすれば、被告松岡から献金のための金員を借りたり、立替払いを受けたりしたことが、原告の意思に反していたと認めることはできない。

なお、原告は、乙第一ないし第四号証を作成した時点では、一一〇〇万円のうち八〇〇万円は被告松岡に返済済みだったと供述するが、信用できない。

(四) そうすると、甲第一号証、乙第五号証、原告本人、被告松岡本人及び弁論の全趣旨によれば、原告の被告松岡に対する六〇四万一〇〇〇円の支払は、前認定の一一〇〇万円の債務の弁済として、被告松岡の要求に応じてされたものであるということになる。

(五) なお、弁論の全趣旨によれば、被告松岡の要求が厳しいものであったことは認められるが、その債権の原因となった貸付け及び立替払いが原告の意思に反してされたという事実が認められないことは前認定のとおりであり、そのような債権が存在する以上、被告松岡の原告に対する取立てがある程度厳しくなってもやむを得ないというべきである。したがって、被告松岡の原告に対する右取立行為が社会的相当性を逸脱しているとまではいうことはできない。

また、被告神慈秀明会において、原告と被告松岡との貸借関係を知っていたとしても、同被告が何らかの責任を負う根拠とはなり得ない。

4  神田慶治の被告松岡に対する計七二〇万円の交付(別紙一覧表⑤⑧)について

甲第一、第三、第二二号証、原告本人によれば、別紙一覧表⑤⑧のとおり、神田慶治が被告松岡に対して平成三年一二月に四八〇万円、平成四年八月に二四〇万円を支払ったことが認められるが、3で認定した事実並びに乙第六、第一二号証及び被告松岡本人によれば、これは、原告の被告松岡に対する債務を代位弁済したものであると認めることができる。右代位弁済は、被告松岡からの取立に応じてされたものであるが、これが社会的相当性を逸脱しているとまではいえないことについては、3(五)で述べたとおりである。

5  原告の被告松岡に対する計六〇万円の交付(別紙一覧表⑰)について

原告は、別紙一覧表⑰のとおり、平成四年一〇月、数回にわたり、原告宅、被告松岡宅、立川駅、八王子駅付近及び町田駅付近において、被告松岡に対して計六〇万円を手渡したと主張するが、右各金員の交付を示す客観的な証拠は全くないから、これを認めることはできない。

6  原告の被告松岡に対する八万円の交付(別紙一覧表)について

原告は、別紙一覧表のとおり、平成五年四月一八日、町田駅付近において、被告松岡に対して八万円を手渡したと主張し、甲第二号証の三〇にはこれに沿う記載があるが、八万円の交付を認めるに足りる客観的な証拠とはいえず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。

7  以上のとおり、原告が被告神慈秀明会ないし被告松岡に対して支払ったと主張する金員のうち、別紙一覧表①ないし③については、原告の自由意思に基づくものであり、同④⑰については金員の交付自体が認められず、同⑤ないし⑯⑱ないしについては、原告の被告松岡に対する借入金ないし立替金債務の弁済として交付されたものであるということになり、被告らにおいて社会的相当性を逸脱した行為をしたと認めることもできないから、いずれもその返還を求めることはできないことになる。

第四  結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、訴訟費用の負担につき民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山﨑恒 裁判官見米正 裁判官品田幸男)

別紙一覧表<省略>

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